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名古屋地方裁判所 平成元年(ワ)3854号 判決

原告

河合文子

ほか一名

被告

加藤智明

主文

一  反訴被告は、反訴原告河合文子に対し、金五二九万七六六〇円及びこれに対する昭和六三年二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴被告は、反訴原告青井加代子に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六三年二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  反訴原告河合文子のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、反訴原告河合文子と反訴被告との間においては、反訴原告河合文子に生じた費用の二分の一を反訴被告の負担とし、その余は各自の負担とし、反訴原告青井加代子と反訴被告との間においては全部反訴被告の負担とする。

五  この判決は、反訴原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  反訴被告は、反訴原告河合文子に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六三年二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴被告は、反訴原告青井加代子に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六三年二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、反訴原告らが左記一1の交通事故(以下「本件事故」という。)の発生を理由に反訴被告に対し、自賠法三条により損害賠償を求める事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故

(一) 日時 昭和六三年二月二三日午前三時三分ころ

(二) 場所 名古屋市中村区黄金町七丁目二五番地先道路上

(三) 加害車両 反訴被告運転の普通乗用車自動車

(四) 被害車両 反訴原告河合文子(以下「河合」という。)運転、反訴原告青井加代子(以下「青井」という。)同乗の普通乗用自動車

(五) 態様 加害車両を運転していた反訴被告がハンドル操作を誤つて対向車線に進入したため、折から対向車線を走行してきた被害車両と正面衝突した。

2  責任原因

反訴被告は、加害車両を自己のために運行の用に供する者である。

3  傷害及び治療経過

(一) 河合について

(1) 河合は、本件事故により、両側季肋部打撲症、左第八肋軟骨移行部骨折、頚部挫傷、歯補綴物破損等の傷害を負つた。

(2) 河合は、岡山病院に昭和六三年二月二三日通院し、市川病院に同年二月二三日から同年四月三〇日まで(六八日)入院し、同年五月一日から同年六月一七日まで(実日数二八日)通院し、三條歯科クリニツクに同年六月二五日から同年七月二日まで(実日数二日)通院して、それぞれ治療を受けた。

(二) 青井について

(1) 青井は、本件事故により、額、前額擦過傷、右膝関節部裂創、左第六肋骨亀裂骨折、背部打撲症等の傷害を負つた。

(2) 青井は、岡山病院に昭和六三年二月二三日通院し、市川病院に同年二月二三日から同年三月二五日まで(三二日)入院し、同年同月二六日から同年五月二〇日まで(実日数四三日)通院して、それぞれ治療を受けた。

4  既払金

反訴被告は、河合に対し三五一万円、青井に対し四三万五〇〇五円を支払つた。

二  争点

1  本件事故と市川病院における治療費との相当因果関係の有無

(反訴被告の主張)

(一) 河合の診療内容について

(1) 内服薬について

市川病院では降圧剤の「カプトリル錠」が投与されているが、「カプトリル錠」は高血圧症に対する治療剤であるから、その治療費一六八〇円は本件事故と因果関係がない。

(2) 静脈注射について

昭和六三年四月以降は内服薬においても自律神経失調改善剤や精神神経用剤が相当投与されているから、同年同月以降の静脈注射は必要がなかつたものであり、その治療費七万六四〇〇円は本件事故と相当因果関係がない。

(3) 理学療法について

市川病院では消炎鎮痛を目的とする理学療法は部位ごとに算定しているが、理学療法の費用については疾病部位、部位数にかかわらず一日につき所定の点数(昭和六三年三月末日までは三〇点、同年四月以降は三五点)で算定することになつている。よつて、理学療法代のうち、同年三月末日までの六万三〇〇〇円、同年四月以降の九万二四〇〇円は本件事故と相当因果関係がない。

(4) 入院措置について

昭和六三年四月以降の入院の必要性はなかつたので、その入院料金四〇万一七〇〇円は本件事故と相当因果関係がない。

(5) 点数単価について

市川病院では、診断料、処置料、手術料、レントゲン料、入院医学管理料については一点単価三〇円で算定しているが、多くとも一点単価二〇円が相当であるから、三四万五三一〇円については本件事故と相当因果関係がない。

(二) 青井の診療内容について

(1) 理学療法について

理学療法については、河合の場合と同様、疾病部位、部位数にかかわらず一日につき所定の点数で算定すべきである。よつて、理学療法代のうち、昭和六三年三月末日までの九万四五〇〇円、同年四月以降の一一万〇二五〇円は本件事故と相当因果関係がない。

(2) 点数単価について

点数単価については、河合の場合と同様、多くとも一点単価二〇円が相当であるから、二五万三五九〇円については本件事故と相当因果関係がない。

2  損害額

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故と市川病院における治療費との相当因果関係の有無)について

1  河合の診療内容について

(1) 内服薬について

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙一三の一ないし三によれば、反訴被告指摘の「カプトリル錠」は、交通事故後の一過性の血圧上昇に対して投与されたものであり、本件事故との因果関係が認められる。よつて、反訴被告の主張は採用できない。

(2) 静脈注射について

前掲乙一三の一ないし三によれば、昭和六三年四月以降の静脈注射についても本件事故との相当因果関係が認められる。よつて、反訴被告の主張は採用できない。

(3) 理学療法について

反訴被告主張の事実を認めるに足りる的確な証拠はないから、反訴被告の主張は採用できない。

(4) 入院措置について

前掲乙一三の一ないし三によれば、昭和六三年四月以降についても入院の必要性が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。よつて、反訴被告の主張は採用できない。

(5) 点数単価について

当裁判所の交通事故訴訟に関する知見によつても、診察料、処置料、手術料、レントゲン料、入院医学管理料については、一点単価三〇円の算定は高額にすぎ、多くとも反訴被告主張の一点単価二〇円で算定するのが相当であると認められる(ちなみに、成立に争いのない甲三によれば、岡山病院では一点単価二〇円の算定がなされていることが認められる。)。よつて、反訴被告主張の三万四五三一点分に、前記(3)で控除しなかつた処置料五一八〇点分(反訴被告の主張による。)を加えた三万九七一一点分、合計三九万七一一〇円については本件事故と相当因果関係がないというべきである。

2  青井の診療内容について

(1) 理学療法について

反訴被告主張の事実を認めるに足りる的確な証拠はないから、反訴被告の主張は採用できない。

(2) 点数単価について

前判示のとおり、診察料、処置料、手術料、レントゲン料、入院医学管理料については、多くとも反訴被告主張の一点単価二〇円で算定するのが相当であるから、反訴被告主張の二万五三五九点分に、右(1)で控除しなかつた処置料六八二五点分(反訴被告の主張による。)を加えた三万二一八四点分、合計三二万一八四〇円については本件事故と相当因果関係がないというべきである。

二  争点2(損害額)について

1  河合の損害

(一) 治療費(請求二二八万九二二〇円) 一八九万二一二〇円

岡山病院分三万七四六〇円、三條歯科クリニツク分四万三四七〇円については当事者間に争いがない。

市川病院分については、成立に争いのない甲四、六、八により認められる二二〇万八二九〇円から前記相当因果関係を否定された三九万七一一〇円を控除すると、一八一万一一八〇円となる。

よつて、治療費は合計一八九万二一一〇円となる。

(二) 入院雑費(請求も同額) 六万八〇〇〇円

入院雑費は、一日当たり一〇〇〇円と認めるのが相当であるから、六八日間で右金額となる。

(三) 入院付添費(請求二三万八〇〇〇円) 一〇万五〇〇〇円

入院中に付添看護を要するとの医師の指示を認めるに足りる証拠はないが、河合の傷害が前記のとおり左第八肋軟骨移行部骨折等の傷害であること及び入院期間を考慮して、近親者の入院付添費として、一日当たり三五〇〇円、三〇日間合計一〇万五〇〇〇円の限度で認めるのが相当である。

(四) 入通院慰謝料(請求一五〇万円) 一一〇万円

前記の河合の受傷の部位・程度、入通院期間等を考慮すると、右金額が相当である。

(五) 後遺障害慰謝料(請求七五万円) 三〇万円

後遺障害等級事前認定手続においては、河合の後遺障害については等級非該当となつているが(甲一八参照)、成立に争いのない乙二一及び反訴原告河合本人により認められる頭重感、左肩の重み等の神経症状を考慮すると、河合の精神的苦痛に対する慰謝料として右金額が相当と認める。

(六) 逸失利益(請求一三七七万円) 四九八万円

証人河合芳兼及び反訴原告河合本人により真正に成立したものと認められる乙六、九ないし一一、一五ないし一九及び同証人、同本人を総合すると、河合は、本件事故当時スナツク「マネージヤー」を経営し、一日当たり三万円の収入を得ていたこと、本件事故により前記傷害を負い、事故当日である昭和六三年二月二三日から店舗再開の前日である同年七月七日までの一三六日間休業を余儀なくされ、四〇八万円の収入を喪失したことが認められる。

また、証人河合芳兼及び反訴原告河合本人によれば、店舗再開後も、閉店していたことによる客の減少や河合が十分に就労できないこと等により相当収入が減少したことが認められるが、河合の前記傷害の内容、程度、後遺障害の内容、程度等を考慮すると、本件事故時の収入の三分の一に当たる一日一万円、三か月間にわたる影響があるものとして、合計九〇万円の限度で本件事故と相当因果関係ある損害が生じたものと認めることができ、右認定を超える損害を認めるに足りる的確な証拠はない。

(七) 弁護士費用(請求七〇万円) 四〇万円

河合が反訴被告に対し本件事故と相当因果関係ある損害として賠償を求めうる弁護士費用は、本件事故時の現価に引き直して四〇万円と認めるのが相当である。

(八) 損害のてん補

河合が反訴被告から三五一万円を受領したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、岡山病院の治療費三万七四六〇円は反訴被告において支払済みであると認められる(右合計三五四万七四六〇円)。

(九) 合計

以上の(一)ないし(七)の合計額から(八)の金額を控除すると残額は五二九万七六六〇円となる。

2  青井の損害

(一) 治療費(請求一四六万八三六〇円) 一一〇万九〇六〇円

岡山病院分については、弁論の全趣旨により八万三七四〇円と認めることができる。

市川病院分については、成立に争いのない甲一三、一四、一六により認められる一四三万〇九〇〇円から前記相当因果関係を否定された三二万一八四〇円を控除すると、一一〇万九〇六〇円となる。

(二) 入院雑費(請求も同額) 三万二〇〇〇円

入院雑費は、一日当たり一〇〇〇円と認めるのが相当であるから、三二日間で右金額となる。

(三) 入院付添費(請求一一万二〇〇〇円) 七万円

入院中に付添看護を要するとの医師の指示を認めるに足りる証拠はないが、青井の傷害が前記のとおり左第六肋骨亀裂骨折等の傷害であること及び入院期間を考慮して、近親者の入院付添費として、一日当たり三五〇〇円、二〇日間合計七万円の限度で認めるのが相当である。

(四) 入通院慰謝料(請求一〇〇万円) 八〇万円

前記青井の受傷の部位・程度、入通院期間等を考慮すると、右金額が相当である。

(五) 後遺障害慰謝料(請求二一七万円) 一八〇万円

甲一九、乙七、八、二二及び反訴原告青井本人によれば、外貌醜状(自賠法施行令二条別表後遺障害別等級一二級一四号該当)が後遺障害として残つたことが認められるので、青井の精神的苦痛に対する慰謝料として右金額が相当と認める。

(六) 逸失利益(請求六七万五〇〇〇円) 四四万円

反訴原告青井本人及び弁論の全趣旨によれば、青井は本件事故当時スナツク「マネージヤー」に勤務し、一日当たり五〇〇〇円の収入を得ていたこと、本件事故により前記傷害を負い、事故当日である昭和六三年二月二三日から通院の最終日である同年五月二〇日までの八八日間休業を余儀なくされ、四四万円の収入を喪失したことが認められる。なお、後遺障害による逸失利益は、前記後遺障害の内容、程度に照らして、これを認めることはできない。

(七) 弁護士費用(請求も同額) 二〇万円

青井が反訴被告に対し本件事故と相当因果関係ある損害として賠償を求めうる弁護士費用は、本件事故時の現価に引き直して二〇万円と認めるのが相当である。

(八) 損害のてん補

青井が反訴被告から四三万五〇〇五円を受領したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、岡山病院の治療費八万三七四〇円は反訴被告において支払済みであると認められる(右合計五一万八七四五円)。

(九) 合計

以上の(一)ないし(七)の合計額から(八)の金額を控除すると、残額は三九三万二三一五円となる。

三  結論

以上の次第で、反訴原告らの請求は、反訴被告に対し、河合が五二九万七六六〇円、青井が内金三〇〇万円、及び右各金員に対する本件事故日である昭和六三年二月二三日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 芝田俊文)

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